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横浜家庭裁判所 昭和40年(少)5374号 決定 1965年9月17日

少年 R・R(昭二一・一〇・七生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

父N・Hと母R・K江の長男として出生し、母方に入籍しているものであるが、父N・Hが平素より飲酒しては母をいじめ、最近に至つてますます母に対する乱暴が激しくなるのを煩悶していたところ、昭和四〇年八月○○日午後三時過ぎごろまたまた父が母K江に対し、首を吊つて死んでしまえ等と言いながら乱暴し、更に酒を買つてこいと怒鳴り散らすのに見かね母や妹達の幸福のため父を殺害することを決意し、近くの金物屋で刃渡り一〇・八糎の手斧を買い求め、同日午後三時五五分頃大和市○○△△△△の○番地の自宅四畳半の間において飲酒中の父の後方から用意した手斧の峯の部分で一撃し、更に隣室六畳の間に倒れ込んだ同人の頭部顔面等を手斧で二回殴りつけ同日午後五時五七分頃神奈川県大和市○○○△△△△市立○○病院において脳挫滅により死亡させて殺害したものである。

(法令の適用)

刑法第二〇〇条

(要保護性)

少年は

昭和二一年一〇月七日実父N・H、実母R・K江の間に長男として生れたが当時実父は性格が粗暴で飲酒の上実母その他の者に乱暴をすることが度重り、その上賭博等刑事問題を頻繁に起し、飲酒に耽つて家計をかえりみないため実母が稼働し、貧困な生活を送つており、少年が昭和二八年四月に小学校に入学後も実父は実母に対し酒入りの一升びんで頭を殴りつけ、少年の妹E子を抱いている実母を床下に押し込み、電流の通じたコードを竹の先に付けそれをもつて母子を追い廻したり又E子を背負つた実母の首に荒繩を捲きつけて道路を引張り廻す等実父の常軌を逸する行動から同二八年九月頃母子は着のみ着のまま家出し、母子寮に入寮し、やがて大阪に行つたが実父に居所をつきとめられ、実母は復縁のいざこざから実父より火のついたベンジンを顔にかけられたりして又転々と逃げていたため同三五年一二月二二日頃中学校を二年生で中途退学するまで安定した学校教育を受けることもできず更に実母がその間大阪の飲食店で稼働中に知り合つた山○忠と同棲するようになつて間もなく上京したが同人からも少年および実母等は迫害され、その仕打ちに耐えかねて同三九年九月六日母子は同人の許を去り三鷹市の知人を頼つてアパートに居住し、少年は自動車運転手の助手として稼働したが大阪の児童相談所に預けてある妹E子を引取るため同四〇年五月一日大阪に出向いたもののすでに同女が祖母および叔母に当る実母の妹に引取られていることを知つて直ちに戻り、叔母に会つたが、その以前昭和二九年一、二月頃実父が少年等の行方を探して実母の姉のところへ行きその居所を尋ねたがその行方を知らされなかつたことに激昂しその経営する旅館○黒屋に放火したことにより懲役八年の刑に処せられ同三五年一月二二日頃仮出獄していた実父が妹E子を引取り、これを虐待していることを知り、少年は実母と相談し、これ以上逃げ廻る生活をしたくないことおよび住民登録の手続ができないでいることが不便なことから今後実父と同居することをきめ実父と少年等は同年五月三日実父のところに集まり、今後は一切今までのことを口にせず、仲睦じく暮してゆくことを話し合い実父もそれを了承し、同年五月三一日に大和市○○△△△の○に転居し親子揃つて同居生活を始めたが実父はその後約一五日位は平静であつたが再び飲酒の上実母に対し逃げた理由や山○忠との関係等を持ち出して乱暴することが絶え間なく少年が実父に同居する際にきめた前記条件をいつて仲裁に入れば「あれは嘘だ、そういわなければお前等は又逃げるからだ」等といつてとり合わず、少年は稼働先その他で相談する者もなく一人煩悶していたところ同四〇年八月○○日に前日から又始まつた実父の実母に対するひどい仕打やこれまでの自己や妹達に対する態度からみてついに思い余つた末この際家族の幸福のためには実父を殺害する以外に方法はないと考え、前記犯行におよんだものであつて、少年のこれまでの生育歴をみると今日まで殆んど安定した生活を送つたことがなく、物心が付いた頃から父に対する恐怖心、不安感が強く、成長過程の大部分を父と別居していたため父に対する愛情も芽ばえぬまま成長したがそれでも少年の心の中では父親としてのあるべき姿を画き、家庭の平和を切望し、自己が長男としての責任から円満な家庭生活を送るべく努力してきたものの、父親の度はずれた異常性格とももくすべき度重なる乱行からついに忍従の限界を越え尊属殺という大事件を惹起したことが認められ一面において運命づけられた非行として同情に価すべき点もあるとはいえ、少年にはこのような生活環境からつちかわれた社会的視野の狭さ、現実認識の乏しさが認められ、今回の非行もそのような特性を基礎とした独善的傾向からなされたものともいえないことはなく、少年が将来父なきあとの一家を支え、これを盛り立てていくには上記欠陥を教育改善する必要があるとともに危機場面で内的緊張を統合し、それを短絡的行動によらず処理する社会適応性を涵養する必要があると認められるのでこの際少年を中等少年院に送致して矯正教育を施すのが相当であると認められる。

よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 松田光正)

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